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第六話  午睡とにらめっこ
  バクは夢を食む動物だという。それならさしずめ、猫は退屈を食む生き物だ。
  もちろん猫にも退屈嫌いの片鱗はあって、生後2〜3年の騒々しさと言ったらそりゃなかなかのものだ。 我が家では1人息子の誕生する半年ほど前に生まれた特権を行使して、猫はずっと兄貴格の身分をその後10年間ほど譲ることはなかったが、 目の前に突如として現れた人間のようで人間に見えないやや体温高く、 おぎゃ〜おぎゃ〜とうるさく泣く赤ん坊を自分のオモチャかペットのように見ていたフシもあった。 気をつけなくてはならないのは、ベビーベッドの周辺サークルもひっくるめて、ソレは猫のために準備された寝床であり、 赤ん坊というあたたかいペット付きと思われたことだった。しばしば乳児の横に添い寝する猫を発見し、 はっと息を飲みつつも大声は出せず、静かに別の部屋に抱き連れて出たことを憶えている。
  人間の赤ん坊が成長し2、3歳になると、猫は明らかに子供の様子を観察する保護者の目つきで、 彼の周囲に寝そべっていることが多かった。この頃から完全に猫には大人びた風情がただよい、食事時以外、 僕を含めた家族全体に尊大で高慢な、まるで我が家に君臨するかのような態度をとるのだった。 息子は小学校中学年あたりになるまで単なる駄々っ子という扱いしか受けられず、そのぞんざいな態度はこの僕にまで及ぶのであった。
  息子とワイフが2人連れ立って出掛けた留守中、そんな時、 家の中で唯一の他の動物である僕を監視するかのように別の部屋からやって来て、 猫は仕事部屋のほぼ真ん中のカーペットの床に前肢をきちんと折り畳み、まるで美しい剥製の陳列品のように目を閉じて午睡に入る。
「おい。キミ。遊ぼうか?」
  僕は不意に立ち上がると猫の真正面に腹這いになって顔をつき合わせる。
「おい。にらめっこしようゼ」
  目をつぶっていたって分かるのだ。 僕が言葉をかけるごとに、ピンと立った耳が反応している。ふっと息を吹きかける。 いかにも煩わしいといった風情で僕を見上げたらしめたものだ。僕は無言で猫を見つめる。 最初こそ怪訝そうに僕の顔全体の表情を眺めたものの、ニャ〜とかすれ声でひと鳴きすると、何事もなかったかのように目を閉じてしまう。
  猫とはけっしてにらめっこができないのであった。退屈な僕はそのまま猫の真正面で腹這いとなったまんま、ゆるゆると午睡に入ってしまった。
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